就労継続支援A型事業所の多くが直面している危機

株式会社ありがとうファームの馬場と申します。ありがとうファームは岡山市表町商店街を拠点に4つの障害福祉サービス(就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所、生活訓練、共同生活援助)を運営する障がい福祉事業所です。「生き生きと堂々と、人生を生きる。」という企業理念で、障がいがあるメンバー100名、職員30名の合計130名で活動しています。

今回は就労継続支援A型事業所の現状について個人的な考えも含めてお伝えできれば幸いです。

※株式会社ありがとうファームHPより引用

就労継続支援A型事業所とは

就労継続支援A型事業所とは一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行う障害福祉サービスです。市場規模の推移として平成28年は3,419事業所でしたが、令和4年には4,323事業所と1.2倍に増加。平成28年は64,239名の利用者でしたが、令和4年には82,990名と1.3倍に増加し、需要・供給ともに増加していました。

※厚生労働省「就労継続支援A型に係る報酬・基準について≪論点等≫」から引用


就労継続支援A型事業所が社会から求められている使命として、「社会的自立のために仕事の訓練を行い一般企業への就労を目指す(一般企業就労者の輩出)」「自分たちの給料を自分たちの仕事で稼ぐ生産性高い仕事を行う(生産性)」という2つの大まかな命題があります。
また、就労継続支援A型事業所は、最低賃金の支払いと社会保険の加入なども定められており、それは障がい当事者の皆さんの尊厳にもつながっていると感じています。

就労継続支援A型事業所の収益構造は、障がいや難病を抱えた利用者が仕事の訓練のために通所することで発生する「国保連収入(国からの報酬)」と、自分たちで生産活動を自由に行い、利益を稼ぐ「生産収入(自主事業)」の2本柱で成り立っています。「国保連収入」については、スコア方式と呼ばれる厚生労働省が規定した独自の評価項目に基づき点数がつけられ、その点数の分布に応じて、単価が変わります。スコアが高得点であるほど優良な事業所として評価をうけ、より高い「国保連収入」として還元されていきます。

報酬改定による就労継続支援A型事業所の存続の危機

実はいま、日本に新たな社会問題が起こり得る規模の変化があったことをご存知でしょうか?「国保連収入」に関するルールは、3年に一度、その時々の国の方針に基づいて変更されます。令和6年2月中旬に、その年の4月1日から適用される新たなルールが発表されました。今回、様々なルール変更があった中で、就労継続支援A型事業所の収入の柱である「国保連収入」の報酬が大幅に削減されるような改定が行われました。それは、この「国保連収入」を左右するスコア方式項目の一つ「生産活動の生産性」が以前と比較してより重視されるようになったことです。この結果、障がいがあるメンバーが「自分たちの給料を自分たちの仕事で稼ぎ切れていない(生産活動で赤字となっている)」就労継続支援A型事業所は他の項目でいかに評価を受けたとしても(加点があったとしても)取り返しがつかないほど大きな影響を受けることになりました。具体的には、改定前である令和6年3月以前と比較して、国保連収入が4割減少する見込みです。これは、経営を継続していくことが困難なほどの影響です。ちなみに、全国に約4,000ある就労継続支援A型事業所のうちの約半数がこの生産収入が稼ぎ切れていない(生産活動が赤字)であると推定されています。

※厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」から引用

報酬改定を受けて、就労継続支援A型事業所はどうなる?

就労継続支援A型事業所の今後の選択肢は大きく分けて4つあります。

(1)生産収入を稼ぎ切る(生産活動の収支をマイナスにしない)
(2)就労継続支援A型事業所の縮小
(3)就労継続支援B型事業所への切り替え
(4)廃業

(2)~(4)の選択肢を選んだ場合、障がいや難病を抱えた当事者の解雇につながり、生活していくために生活保護の受給者が増加することが想定されます。つまり経営の安定とトレードオフの関係で、結局、障がい者当事者にしわ寄せがいってしまいます。

(1)の選択肢を決意した就労継続支援A型事業所も困難な道が待っています。冒頭で就労継続支援A型事業所の使命は「一般企業就労者の輩出」と「生産性」の2つあるとお伝えしました。しかし、一般企業への就労準備ができている利用者=生産活動における主力利用者であることが多く、一般企業就労者を輩出してしまうと生産活動へは負の影響があり、生産活動だけを重視すると一般企業就労者を輩出できません。すなわち、「一般企業就労者の輩出」と「生産性」のどちらも追求していく必要がある就労継続支援A型事業所は、ある意味ジレンマを抱えながら運営されていると言えます。これらを両立させようとすると、属人性が低く高単価な仕事を生産活動にせざるを得ず、誰が作業しても同じアウトプットの事業か、親会社から高単価で清掃業務など受注できるような大きな資本がある企業の関連事業所になるのではないでしょうか?また、一般企業における「障がい者雇用」の労働条件は、健常者と比較して給料が低いケースが多くあり、就労継続支援A型事業所から一般企業への就職がステップアップにつながっているのかどうか疑問も残ります。

「多様性」が叫ばれる現代において、「生産性」を重視した結果、「画一化」された仕事で訓練し、一般企業へ就労できても「障がい者雇用」という枠組みで健常者の雇用と比較して低い賃金で働かざるを得ないという、『真の多様性・共生社会』とはかけ離れた社会の現状があるように思われます。

企業における障がい者の法定雇用率が令和6年4月から2.5%に引き上がったこともあり、今後一層、障がい者が社会に溶け込み、共に助けあい生きていくことが求められます。全国約1,160万人いるといわれる障がい当事者のうち、一般企業へ就労している障がい者は約60万人しかいません。少子高齢化で労働人口が減少する日本において、障がい者が生き生きと活躍し、重要な戦力になるかどうかは今後の日本全体の方針を決めていく上でも大きなポイントとなります。

今回の報酬改定は、就労継続支援A型事業所において、障がい者の大量解雇という新たな社会問題を引き起こす危険性があると同時に、障がい者が社会で一層活躍してくれることを国が期待していると受け取ることもできます。ただ、そのためには政治的な仕組みの変更だけでなく、障がい者の真の声・姿を知って、誤解や偏見がない正しい相互理解が必要不可欠だと考えています。

「知ることは、障がいを無くす。」

株式会社ありがとうファームが社会に浸透させたいスローガンです。

障がいがあっても「生まれたからには社会の役に立ちたい」「自立して今まで支えてくれた方を安心させたい」という想いで日々働いている障がい者が数多くいること。そして何より、適切な支援があれば社会で十分に活躍できるポテンシャルを秘めた障がい者が数多くいることをより多くの人に知ってもらうことが、真の共生社会につながると信じています。

株式会社ありがとうファーム取締役副社長馬場 拓郎
1992年生まれ岡山育ち。2014年岡山大学工学部を卒業。
その後、地元広告代理店就職、2018年県内ベンチャー企業に転職しクラウドファンディングや人材採用支援に従事。
現在のありがとうファームには、2020年から勤務し、2022年から現職。
パートナーシップ推進室という部署を兼務し、社外の団体・企業との連携を推進。
1992年生まれ岡山育ち。2014年岡山大学工学部を卒業。
その後、地元広告代理店就職、2018年県内ベンチャー企業に転職しクラウドファンディングや人材採用支援に従事。
現在のありがとうファームには、2020年から勤務し、2022年から現職。
パートナーシップ推進室という部署を兼務し、社外の団体・企業との連携を推進。
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